April 07, 2024

『源氏物語論』吉本隆明

Img_3181

『源氏物語論』吉本隆明、ちくま学芸文庫

 大学生の頃に出た『源氏物語論』は、当時、吉本さんには別なものを求めていたので、文字通りざっとしか読んでいませんでした。吉本源氏に対してアカデミックな立場から行われた批評に対してこっぴどく反論した評論の方が印象に残っていますが、それでも、自分の源氏物語に対する基本的な見方は吉本源氏なんだろうな、と思って改めて文庫版を読み返してみました(文庫版はちくま学芸文庫が創刊された時に、吉本さんの源氏がラインナップされたので、記念に求めました)。

 ぼくが吉本源氏が凄いと感じたのは「第IV部環界論」の物の怪についての部分です(p.187)。

《葵の上が産褥の床で物の怪に憑かれて、容貌から口調まで六条御息所に変貌して、あらぬことを愁訴している丁度そのとき、六条御息所じしんは思いつめて心神が喪失した状態で魂が身体から離れてゆくのを体験している。そして葵の上が、修法によって物の怪から離れて静かになったとき、六条の御息所は、じぶんは六条の住いにいただけなのに、衣裳には、修法のさいに護摩のため焚かれる火にくべられた芥子の香りが滲みこんでいてなかなかにとれないと感ずる。
 『源氏物語』の作者は、ここでも物の怪を送りやる側の離魂状態の心神喪失と、物の怪にのり憑られる側の変貌した状態が〈同時性〉の関係にあることをはっきりととらえた。そしてこの物の怪の名をになっている側の心神喪失の状態と、そこに憑かれた側の変貌とが〈同時〉におこる描写は、怨念を送るものの魂が身体から離れて、怨念を受けとる側に入り込むのが、物の怪の背後でおこったことだという洞察をあたえた。これはわたしのせまい知見では『源氏物語』の作者がはじめてあたえたものだった。》

 これは、源氏物語の「昼」の部分を統御しているのが藤壺であるとすれば、「夜」は六条御息所の物の怪である、という「夜」の部分を展開したものですが(p.185)、「昼」の部分についても《『源氏物語』の作品世界を霞のようにおおった幼児的な心性の雰囲気と、そのためにかもされる主人公たちの近親相姦的な願望を、世界が敏感で高度なのにかかわらず、密封されているところからきている》(p.171)というあたりは凄いな、と。

薫中将はあらかじめ欲動もてない存在として描かれたのは、胎児のときに柏木との密通で生まれたということで、厭わし子として母の女三宮からうとまれたからだというのはなるほど、と。家柄、姿は格別なものの、徹底的に愛から遠く生まれた存在だから、紫式部は薫に仏教的な芳香を放つ身体を与え『法華経』の「薬王品」の護持者であることを象徴させたというあたりもなるほどな、と(p.100)。

 八の宮の一周忌の黒染の喪着をつけたと心に黒染の衣をつけた薫が月を眺める場面は宇治十帖の世界で最も優れていると書いてある「総角」は読んでみようかな、と。でも、そうした欲動がないことが大姫を衰弱させ、浮舟を自殺に追い込むというあたりの読み込みも素晴らしいな、と。浮舟は死んだ大姫の代わりの人形であり、それは雛を川に流すことで罪が浄化されるという伝承に根ざしている、と。

| | Comments (0)

『ミクロ経済学入門の入門』坂井豊貴

61aactq3iml_sl1500_

『ミクロ経済学入門の入門』坂井豊貴、岩波新書

 コカ・コーラとペプシコーラのどちらが好きかというところから無差別曲線の解説をするなど、親しみやすい内容だが、一番、感動したのがギッフェン財の説明。

 これを留学時代の貧しい食生活から説明したあたりが素晴らしい。筆者は留学先の地元スーパーのPB商品だった1袋1.5ドルの不味いパスタを買っていたのですが、時々は高くて美味しい2ドルのパスタを購入していた、と。こうしたなか、このスーパーが1.5ドルから1.6ドルに値上げした時、もう贅沢な高いパスタを求めることをやめ、安いパスタの消費量を増やすことで対応しようとした、というんです。

 本当なら、差額が0.5ドルから0.4ドルに縮まったので、高いパスタを買いやすくなったわけですから、そっちを買うと予想されますが、生活防衛のため、絶対買わなければならないパスタが値上がりしたら、可処分所得は少なくなるわけですから、安い1.6ドルのパスタをもっと買うことになる、と。

 大部分の財は「需要法則」の通り、価格が上昇すればその財への需要量は減少するのですが、ギュッフェン財とは価格が上がると需要が増すもので、貧しい地域の必需品がそうなることがあるということでしたが「そんなことあるかい!」と普通は考えますよね。

 しかし、19世紀のアイルランドでのジャガイモ飢饉の際のジャガイモの需要は、値が上がるほど上昇したそうで、背に腹が替えられない状況では、生活必需品の価格が上がると需要は高まる、と。これを発見したイギリスの経済学者ギッフェンにちなんでギッフェン財と名付けられたそうで、なるほどな、と。

 「不確実なくじと、それと無差別になる確実な金額を、そのくじの確実性等価という」とのことですが、期待効用が計算通りには感じられない条件つき財=保険、たからくじ、馬券などの説明も面白かった。

 どちらも格差拡大につながる話で、《おおよそ持っている人には、なお与えられ、持っていない人からは、持っているものまでも取り上げられるであろう( ルカ 19:26、口語訳)》ということなのかな、と。

 このほか、ナッシュ均衡、パレート優位、ベルトラン寡占市場、クルーノー寡占市場、ブライステーカーなどの経済学用語が平易に説明されています。

 ナッシュ均衡とは、自分が行動を変えると損をする膠着状態のことで、必ずしも双方にとっていいとは限りませんが、逆に双方にとって一番いいナッシュ均衡状態のことをパレート優位と定義する、と。これもイタリアの社会学者ヴィルフレド・パレートによって提唱されたもので、誰の効用も犠牲にすることなく、少なくとも一人の効用を高めることのできる変化を「パレート改善」と呼ぶ、と。

 ミクロ経済学とゲーム理論はつながっているな、と改めて感じました。

| | Comments (0)

『進化のからくり』千葉 聡

Img_0663

『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』千葉 聡、ブルーバックス

 毎日出版文化賞を授賞した『歌うカタツムリ』岩波科学ライブラリーは地味でパッとしないカタツムリが進化研究では重要なプレイヤーであることを解き明かしていましたが、『進化のからくり』では、カート・ヴォネガット が《ガラパゴス諸島の生物は、アフリカのものと比べると、パッとしないと言わざるを得ないでしょう。しかし、それが彼らの運命であり、彼らが百万年を経て進化した結果なのです》(『ガラパゴスの箱舟』朝倉久志訳、早川書房、1981)と書いたガラパゴスの島で、著者が本を読むところから始まります。

 修士課程で預かったサーフィン好きの学生が、突然インドに旅だってしまったものの、研究室に戻ってきて、やがてサーフィン好きの米国人ポスドクと意気投合して、そこからホソウミニナが生物的に別れていく途中ではないかというストーリーに基づく研究が覆され、二生吸虫の感染による異化だったというあたりの話しは凄いな、と。そして、その章に遠藤周作の『深い河』と1968年制作のサーフィン映画の嚆矢だった『エンドレスサマー』をもってくるあたりのセンスが素晴らしい。

 フリオ・イグレシアスが『北斗の拳』のサウザーのように内臓逆位(Situs inversus)だったとは知りませんでした。

 なんかパッとしない左巻きカタツムリのジェレミーの話に感動するとともに、それが終章で多くの市井の生物愛好者の助けによって、日本で新た
展開を生むあたりの大団円も見事。

 スコットランド出身のポスドクが小笠原のフィールド調査に行くあたりの描写も素晴らしいな、と。

[目次]
第1章 不毛な島でモッキンバードの歌を聞く
第2章 聖なる皇帝
第3章 ひとりぼっちのジェレミー
第4章 進化学者のやる気は謎の多さに比例する
第5章 進化学者のやる気は好奇心の多さに比例する
第6章 恋愛なんて無駄とか言わないで
第7章 ギレスピー教授の講義
第8章 ギレスピー教授の贈り物
第9章 ロストワールド
第10章 深い河
第11章 エンドレスサマー
第12章 過去には敬意を、未来には希望を
第13章 グローバルはローカルにあり

| | Comments (0)

March 18, 2024

『NHK「100分de名著」ブックス 清少納言 枕草子』山口仲美

81gbcr9sl_sy522_

『NHK「100分de名著」ブックス 清少納言 枕草子』山口仲美、NHK

「100分de名著」はだいたい良いんですが、この枕草子編では4回分の講義に、特別章「女の才能、花開く 清少納言と紫式部と和泉式部」を加えたお得な構成となっています。

 有名な春はあけぼのから始まるんですが、清少納言の斬新さは、「時間」で自然美を切り取るという発想であるというのはなるほどな、と。

《『古今和歌集』の春の歌を調べてみると、春の自然美は、 霞、桜、梅、柳、 若菜、 鶯、 雁、 百千鳥、 呼子鳥 といった風物なのです。「時間」で自然美を切り取るという発想は、『枕草子』以前には見当たりません》(k.1401)。

《『枕草子』以後にできた『後拾遺和歌集』 になると、時間から切り取った情緒的な風景が歌に取り上げられています。「花ざかり 春のみ山の あけぼのに 思ひ忘るな 秋の夕暮」(一一〇二番歌) などと、『枕草子』の影響を感じさせる歌も出てきます。清少納言による、時間から自然美を切り取るという視点がいかに新しく、人々に衝撃を与えたかが分かるでしょう》(k.366)

 という引用は日本の古典の素人にとって、ありがたい指摘です。

 また、枕草子は中宮定子の全盛期の割と短い間に書かれて《凋落が始まってからの屈辱的で悲しい出来事はほとんど書かなかったということです。あくまで、明るく輝き、 意気軒昂 とした定子のサロンの様子を描き切っている。ここに『枕草子』の虚構があります》(k.307)というのは知らなかったな…《紫式部が宮仕えに出た時は、清少納言は、宮仕えを終え、引退して数年経っています。和泉式部は、いわば紫式部の同僚で、紫式部のほうが二~三年先輩です》(k.1162)というあたりも。

 古典をよく読む方には常識かもしれませんが、《清少納言と和泉式部は平易な日常会話語を好んで、前者は散文を綴り、後者は和歌を詠んでいました。それに対して、紫式部は、歌の世界で用いる雅やかな言葉「歌語」が好み》(k.2006)というあたりもありがたい教示です。

| | Comments (0)

『NOISE 下 組織はなぜ判断を誤るのか?』カーネマンその他

31hanylmkwl_sy445_sx342_

『NOISE 下 組織はなぜ判断を誤るのか?』カーネマン/ オリヴィエシボニー / キャス・R・サンスティーン / 村井章子(訳)

 上巻ではノイズが発生する様々な場面が描かれていますが、下巻はノイズの原因と対処法がテーマとなっています。

 上巻に引き続き医師、裁判官などプロ中のプロの判断に信じられないほどのバラツキがあり、それが社会的な許容限度を超えている実態が次々と明らかになっています。さらに、こうしたプロ中のプロは独立独歩で自分の直感的な判断を盲信するため、それを制限するためのアルゴリズムを事前に導入することに反対するので始末におえません。

 こうしたアルゴリズムの有効性を端的に表している例としてあげられているのはアプガー・スコア。

 アプガー・スコアは出生直後の新生児の状態を評価し、新生児仮死を判断するための基準です。出生時に呼吸循環不全を呈すると生命予後や神経発達障害などの問題にまでつながるため、新生児仮死の徴候を速やかに捉えることは重要でした。それまで個々の医師の判断に任されていたものを、「皮膚の色」・「心拍数」・「反応性(啼泣)」・「活動性(筋緊張)」・「呼吸」の5つの評価項目について、それぞれ0~2点の3段階に点数をつけ、その合計が10~7点を正常、6~4点を軽症仮死(第1度仮死)、3~0点を重症仮死(第2度仮死)とするという比較的単純なスケールですが、こうした単純な評価の上で医師が判断を行うことによって、全ての層で改善がみられたそうです。

 医療の分野では精神科医の判断のバラツキが特に大きいため、アメリカ精神医学会はDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、精神障害の診断と統計マニュアル)を定め、この診断基準を元に保険診療がなされることになっており、DSM-Iが1952年に発表されて以降、現在ではDSM-5(2013)まで改定が進んでいます。マニュアル化された診断が精神医学の面白みをなくしてしまったという面もあるでしょうが、向精神薬の発達なども含めて、入院の短期化、症状の軽減など患者にとってはメリットの大きなマニュアルになっていると思います。

 このほか、ルーレットに等しいとまで酷評しているのが難民認定を許可する審査官の判断。アメリカでの調査によると、申請の5%しか許可しない審査官と88%を許可する審査官がいたそうです。このほか、午後になれば許可率は落ちたりするわけで、難民に認定されるかは賭けをするようなものだ、と。

 また、士業などの個々人のプロの判断だけでなく、組織にも判断ミスは付きもの。著者たちは人事領域である「人事評価」と「採用面接」を取り上げていますが、誤判断の防御策としてあげられているのが「判断ハイジーン」。衛生管理を意味するハイジーンという言葉が選ばれたのは、ノイズを減らすのは衛生管理と同じく、特定できない敵に対する防御だからとのこと。

 これは手洗いのような衛生管理に似ており、どんな菌やウィルスを防いでいるのか分からないにしても確実にノイズを防止する効果を持つとしています。
 
 組織として判断を下す時には会議など、最初の発言者に大きく左右されるようなやり方ではなく、判断を構造化して独立したタスクに分解した上で、一つひとつの項目に対して独立した多くの人が判断したものを、後で統合することで、力のある者の直感を遅らせる、みたいな手順が推奨されています。

 官僚制度は複雑な社会をコントロールするための手段として多くの組織に導入されていますが、将来への予測などはサルがダーツを投げるようなものであり、大きく間違わないためにも、構造化すべきである、と。

 人事、採用でも構造化された判断が有効だ、みたいな。

| | Comments (0)

March 11, 2024

『明解 歴史総合』帝国書院

Img_3107

『明解 歴史総合』川手圭一ほか、帝国書院

 帝国書院の『明解 歴史総合』を購入、読んでみました。

 高校では2022年度から歴史総合・地理総合が共通必修となり、2024年度で3年目を迎えます。その教科書で異変がありました。ぼくたちの時代から歴史の教科書といえば山川なのですが、24年度の採択数では山川の『歴史総合 近代から現代へ』に変わって帝国書院の『明解 歴史総合』が1位となりました。

 もっとも山川は進学校向けの『歴史総合 近代から現代へ』、中級の『現代の歴史総合』、分かりやすい『わたしたちの歴史』の3種類を出しており、それらを合わせると相変わらずトップですが、23年に3位だった『現代の歴史総合』が東書の『新選歴史総合』に抜かれて4位に下がっています。

 帝国書院も東書のも図版の多さからみると中級レベルなのかしらん?と思っていたんですが、山川の歴史総合を売上で抜いたというので、どんなものかと取り寄せてざっと読んでみたところ、やはり、物事には理由があるな、と感じました。

 第1部2章の「歴史の特質と資料」がいい。資料には図説、文書、遺跡・遺構、工芸品や映像などがあるとして、文書資料を相対化しているのが素晴らしい。でも、その文書資料でも、奴隷解放よりも連邦を救うことを第一に考えていたことがわかるリンカンの手紙を紹介しているのも驚きを与えてくれますし、資料→解釈→検証・批判→歴史叙述の説明なんかも素晴らしい。

 序章となる19世紀の主要プレーヤーに、ナポレオン、ヴィクトリア女王などに並んで、エジプトの近代化を進めたムハマンド・アリーを入れたり、集められた植物を品種改良してプランテーションとして移植されて植民地の拡大に影響を与えた「植物園」の説明なども素晴らしいな、と(p.42)。

 「歴史に迫る」と題して見開きでフランス革命は人権宣言の理念をどこまで実現できたか?徳川幕府の対外交渉をどう評価するか?21箇条要求のどこを問題にすべきか?チェンバレンの政策の評価、黒人差別の取組にひつようなものは?という5つの見開き頁には感心しました!

 あと、図版が新鮮!勉強不足なのかもしれませんが、あまり見たことがない図版が多かったです。

 Amazonではバカ高いので、お手軽なメルカリで購入したんですが、明解歴史総合ノートはメルカリでも売り切れ。

 山川、これは相当、頑張らないと…

| | Comments (0)

March 06, 2024

『わが投資術 市場は誰に微笑むか』

Ghjt2sxboaaz9vq

『わが投資術 市場は誰に微笑むか』清原達郎、講談社

 2005年に発表された「最後の長者番付」で1位となった伝説のサラリーマン投資家・清原達郎さんが、咽頭がんで声帯を失い、引退を決め「私には後継者がいない」ということで株式投資のノウハウと、バブル期以降の市場の動きを公開したのが本書。無類の面白さでした。

 「はじめに」だけでも迫力が違います。若い頃は会社四季報を3日で読んだとか、引退するのはショートで貪欲に儲けていく情熱を失ったからだとか(日本M&Aとレーザーテックの空売りで100億儲けられたのに10億ももうけられなかった」)とか、日本人の運用する日本株のヘッジファンドのハンドルレートは0%で甘すぎるから、引退時に顧客に紹介できるファンドはなかったとか、日本一のファンドマネジャーの株式指南本は迫力ありすぎです。

 最初に就職した野村證券についても、今は立派な会社になっているが、当時は「準詐欺組織」だったと歯に衣着せぬ物言いは「恐い物なし」でさすが。

 第二章「ヘッジファンドへの長い道のり」について、著者は具体的な株式投資の手法を読みたいなら飛ばして三章を読めと書いていますが、とんでもない面白さでした。これは読んだもん勝ちなんじゃないですかね…いつも読んだ本はnoteにまとめているんですが、ここはあえて書きません。本当に勉強したい方は買って読んでください。

 そんな中でもひとつだけ…ジョージ・ソロスからの投資の誘いを断った話し。《ユダヤ人というのは「オプション」が大好きなのですね。何千年の歴史の中で「よからぬことが起きた時のために別のオプションを用意しておく」のが生活習慣になったんでしょうねえ。この点では日本人は真逆です》p.91というはなるほどな、と。

 ベイズの定理を使って
1)1000社の割安株グループの中から
2)100億円のファンドが
3)成長株に投資して利潤が高くなるのは

a)50社の株価を2億円ずつ買うか
b)200社を5000万円ずつ買うか
のどちらが良いのかを説明するあたりは「さすが理系の人だな」と思って読んでいたんですが(p.167-)、ベイジアンになったのは新型コロナの時の、おそらくPCR検査の有効性について勉強したから、と書いてあって、ホッとしましたw

 小泉内閣の上げ相場の時と、リーマンショック後の急回復の時、よく「退職金で、配当利回りが二桁あったREITを買ったら、億った」みたいな人の話を日経なんかで読んだけど、清原さんは、落ちるナイフを2度も素手で掴んで大儲けしたんだな、と感心。ヤな予感しかせず、ダ・ヴィンチの倒産などがトラウマになっていた自分はアホだったな、と改めて思いしらされますw

 白眉は6章?HSIは持っていたのですが、わけわからないTOB劇に嫌気がさして売って全てを忘れていました。今回のことで、モンゴル最大のハーン銀行が外国人(日本企業であるHSI)に支配されることを嫌ったとモンゴル中銀がトンデモない言いがかりをつけてきたことがわかりました。

 また、オリンパスの粉飾決算はダダ漏れで有名だったというのに驚きます。UTグループは買ったろかwプレサンスの社長さんは可哀想すぎる…。

 親の遺言で信用はやらないので、ましてや空売りは絶対しないのですが、プロは素人向けに證券会社が特定テーマの投信がつくったら、そこが株価のピークとみて空売るのかと感心。

 あと、一度もイオンモールに行ったことないので知らなかったんでが、イオンは個人株主が優待を目当てに株が安くなったら虎視眈々と買いまくるという「顧客が出資者の生協」みたいな会社なのか、と驚きました。今年中に、どこかのイオンモール行ってみよw

 最後にESGをぶっ叩いて終わるのも小気味いい。そんなにCO2を削減したけりゃ人口減らせ、とw少子化対策もCO2削減も意味ない、みたいな。人口減れば、一人当たりの所得は増えるし、と。

 とにかく、月曜日のマーケットが始まる前に読み切るという目標を果たせて満足です。付けた付箋と折ったドッグイヤーはこれからの財産。ネットキャッシュ比率など、勉強し直す必要もあり、これからも何回も読み直すことになると思います。

 いまの金利を前提にすれば、日本株は倍になってもおかしくない(p.261)と書いているほか、清原さんは「日本株はショーテッジ(需要過多)になる」と2回書いていて(解説の伊藤博敏さんも含めると3回)、個人的にも、持ってる株は先高観しかないので、短期で考えてるもの以外は、しばらく持ってようと思うのですが、循環物色に小型株入れてみようかな、とか考えはじめてる自分を笑いましたw

 それにしても『経済評論家の父から息子への手紙』の山崎さんにしても、清原さんにしても、ガンを患いましたが、結果を求められる仕事をしてきた方はストレスがきつかったのかな……

 すぐに小型株をやるつもりはないけど、いちよし証券のHPはブックマークに加えてておくかなとか思いました。また、p.102で紹介されている「ネットキャッシュ比率」は、北尾さんのところあたりでEV/Evitdat倍率とともにスクリーニングできるようなサービスをさっそくはじめそうだと思ったら、すでに以下のサイトで簡単にスクリーニング可能でした。

https://tdnet-search.appspot.com/analyze

| | Comments (0)

『経済評論家の父から息子への手紙』

Img_2886

『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて』山崎元、学研

 今年1月に亡くなられた経済評論家だった山崎元さんの最後の著書をKindle版で購入、読んでみました。

 東大の理系に合格した18歳の息子さんに宛てた手紙のうち、最後の経済的処世術みたいなアドバイスの部分を拡げて書き上げた1冊。新NISAで株式投資を始めたという方にもぜひ、これぐらい読んで、生前、著者が日本での普及につとめたインデックスファンドとは何かぐらいは勉強すると良いと思います

 著者の現代に経済・社会に対する見方は、生産手段(≒資本)の私有が許される資本主義経済においては、広い範囲の労働者から利益をピンハネできる「会社」の一部を権利として持つ資本家の立場が圧倒的に有利であり、株主になれば、将来の価値も手に入れることができる、というもの。

 《株式のリスクプレミアムは市場での株価形成の過程を通じて生じる。 以下、この事情を納得してもらおう。株式投資は、対象が高成長でも低成長でも同様に有望でありうる。 投資家が期待を託すべき相手は、「経済成長」ではなく、「市場の価格形成メカニズム」なのだ》(k.667、kはkindle番号)という視点もクリアカット。

 《資本主義経済は、リスクを取りたくない人間から、リスクを取ってもいい人間が利益を吸い上げるようにできている。この点がよく分かったことは、今回この本を書いてみたことによる、父の個人的収穫であった。そして、利益を吸い上げる際に介在するのが「資本」であり、資本に参加する手段が現代では「株式」》(k.401)であるから、これからは昭和なリスクをとらないサラリーマン的な生き方ではなく、起業するか、ストックオプションで株式を得られる企業に入社するか、そうした企業に出資しろ、と。

 そうしたリスクをとる生き方が苦手な場合はインデックスファンドに投資し、《本当は教えたくないのだが、「絶対に損をしないお金」を別途確保しておきたい場合は、「個人向け国債変動金利型 10 年満期」にお金を置くと、低利回りだが安全で無難だ》(k.459)という実用的なアドバイスもついています。

 「オルカン」などのインデックスファンドは《現在、おそらく最善の運用商品が、運用資産100万円当たり年間578円以下の手数料で利用できるのだ。運用は、お金を増やそうとする行為だ。例えば、アクティブファンドに年率1%(100万円に対して1万円)もの手数料を払うことがどれだけアホかは、考えてみなくても分かるだろう》(k.554)と、証券会社が進める(個人的に詐欺にも等しいと感じる)アクティブファンドを切り捨てているのも心地良い。

 勉強会などの幹事には進んでなれ、そして場所を設定する幹事になった場合は、使用する店に必ず一度は行っておけなどのアドバイスも親身だな、と。

 《評論のコツは、自分の利害や好き嫌いを意識的に棚上げしてから、物事を眺めて、バランスの歪みを探すことだ。自分の損得や、生活実感、人や国の好き嫌いなどを棚上げするのは難しいが、慣れてくると面白くなる。君は、経済評論家にはならないだろうと思うが、伝えておく》(k.983)というのは、心にとめておきます。

 《自爆死するテロリストは、宗教に「洗脳」されて、「来世の幸せ」を信じて、自死をも 厭わずテロに及ぶと一般的に理解されるようだが、これは本当だろうか?  思うに、宗教の「効用」は、来世の幸福への期待になどあるわけではない。現世で仲間から得られる自己承認感にあるのではないか》《若者でも高齢者でもいい。孤独な人物を見つけたとしよう。彼(彼女)に「場」と「役割」を与えて、仲間内から評価されるような仕組みを作ると、いわゆるマインドコントロールはそう難しくなく可能なのではないか》(k.1059-)というあたりも面白かった。もう寿命が近いので炎上上等という気分が思い切って書いているのがすがすがしい。

 「私のモットーは、(1)正しくて、(2)できれば面白いことを、(3)たくさんの人に伝えることです」(k.1099)というのはいいな。ぼくも漠然と似たようなことを考えています(もちろん規模は小さいですが)。

 最後に、実際に息子さんに送った手紙で、本書の核になった部分は以下です。

《お金の稼ぎ方では「株式」に上手く関わることがコツになる。起業でも、ベンチャーへの参加でも、ストックオプションをくれる会社への転職でもいい。  私の時代は、出世したり専門家になったりして「労働時間を確実に高く売る」のが無難な道だったが、時代は変わった。株式性の報酬が有利だ。 「自分を磨き、リスクを抑えて、確実に稼ぐ」ことを目指す古いパターンよりも、「自分に投資することは同じだが、失敗しても致命的でない程度のリスクを積極的に取って、リスクの対価も受け取る」のが、新しい時代の稼ぎ方のコツだ。リスクに対する働きかけ方が逆方向に変わった。  仕事で株式性のチャンスに恵まれない場合は、インデックスファンドの長期投資が効率のいい株式リスクとの付き合い方になる。これは、凡人でもできるけれども、一見偉そうな他の投資よりも優れている。お金にも働いて貰うといい》(k.1196)

| | Comments (0)

『NOISE 上 組織はなぜ判断を誤るのか?』

71gyam4nzxl_sy522_

『NOISE 上 組織はなぜ判断を誤るのか?』ダニエル・カーネマン / オリヴィエシボニー / キャス R サンスティーン / 村井章子(訳)

 ジムで有酸素運動のエアロバイクを漕ぎながら聴いているAudibleの1冊。

 行動経済学などで有名になったバイアスについて書かれた『ファスト・アンド・スロー』に続き、今回はノイズを取り上げています。

 本人はプロ中のプロと思い込んでいる裁判官たちの下す量刑に大幅な軽重があるというのが全ての出発点。事態を重く見た米国では実際に、「量刑ガイドライン」が策定されたそうですが、なんとプライドの高い裁判官たちの反発で有名無実化されてしまったとのことですから深刻です。

 これは1970年代にアメリカ連邦判事のマービン・フランケルが刑事裁判における量刑が裁判官によって大きく左右されることを問題視示することから始まりました。50人の裁判官に架空の事件の量刑を求めたところ、量刑が一致することの方が珍しいという深刻な結果だったそうです。

 このほか難民申請の受理、保険料率の決定、医療診断、指紋の判定まで実はノイズだらけというのには驚きます。

 私たちが意思決定をする際、先入観や直感などによって非合理的な判断をしてしまう原因となるバイアスについてはよく知られるようになってきて、行動経済学によって、それを未然に防ぐナッジ(nudge:そっと後押しすること)を工夫して、人々がより良い選択を自発的に行えるように手助けする方法も広まってきました。

 しかし、これよりノイズはより深刻です。特定の人格的傾向、こなしているのが午前中の仕事か午後の仕事か、天候の良し悪しなどによって判断が変わってしまったら当事者には目も当てられません。しかも、判断を下す方は、自分のことをプロ中のプロと錯覚しているので、自覚症状がゼロというのも事態をより深刻にしています。

 こうしたノイズにはシステムノイズ、レベルノイズ、パターンノイズ、機会ノイズの4種類があるとのこと。

 それぞれ、システムノイズ=同じケースに対して別々の人間が下す判断のばらつきがあることで、さらにシステムノイズはレベルノイズとパターンノイズに分類されます。このうちレベルノイズは判断者による判断のバラつき(基本的に量刑が厳しい裁判官と甘い裁判官など)、パターンノイズは再犯に厳しい裁判官など特定のケースに対する判断者の反応のバラつき、と。さらには、その日の気分や環境要因による一過性の機会ノイズもあるというのですから「果たして人には公正な判断など出来るのか」と不安になってきます。

 実際、著者たちが調査した保険会社では、システムノイズは経営者たちが許容できる水準よりも5倍もあったそうです。なんと査定額の差の中央値は、経営陣の予想が10%以下だったのに対して55%もあったそうで、「群衆の知恵」の方が自称プロよりも正確な判断を下せるそうです。

 機会ノイズについては、バスケットボールのフリースローのようなもので、どんなにトーニングしても、同じ動作を正確に繰り返すことはできないことを知るべきだというあたりが印象的でした。一般にフリースローの成功率はガードの選手であれば80%以上、フォワードやセンターの選手であれば70%以上が合格点と言われていますが、これをクリアーするのは難しいそうです。

 さらには、会議などでは集団によってノイズは増幅されるので始末におえません。会議では根回し(誰が最初に発言するかなど)が重要ですが、そんなことで政府の安全保障政策の判断も下されるかと思うとゾッとします。これはマーケティングの戦略でも、新製品は発売第一週で話題になることを重視されることに似ています。

 また、将来予測については「ダーツ投げをするチンパンジーよりましなのかどうか」というレベルだそうです。

 予想よりも統計を重視すべきだ、というのが上巻の結論でしょうか。ちなみに、イズ検査ですガウスの「最小二乗法」が今でも有効だそうです。これは全誤差は個々の測定誤差の二乗を平均した値で、平均二乗誤差(MSE:Mean Squared Error)と呼ぶ、というあたりも勉強になりました。

| | Comments (0)

『特殊効果技術者になるには』

71zsqdrmqgl_sy522_

『特殊効果技術者になるには』小杉眞紀、山田幸彦 (著)、ぺりかん社

 時々、手に取るんですが、ぺりかん社の「なるにはBOOKS」シリーズは、新しい職種の実際がどうっているかを知りたい時に便利。実はいまの中高生向きということもあって、新しい仕事をどんどんカバーしてくれていて、村上龍の『13歳のハローワーク』がどんどんアップデートされている感じ。今回はCGや特殊メイク、ミニチュアなど映像に特殊効果を加える技術者が紹介されているので読んでみました。

 『ゴジラ-1.0』が視覚効果賞で日本映画として初めて米アカデミー賞へのノミネートを果たすなど、日本の特殊効果は海外でも高く評価されるようになってきました。(ちみにクリストファー・ノーランの『オッペンハイマー』はノミネートを逃しています)。『スター・ウォーズ』『未知との遭遇』『エイリアン』などが授賞したこの賞を日本映画が獲れば、どれほど大きなインパクトか…と楽しみなんですが、かつて日本の特殊効果部門はちょっと緩いというか寂しささえ感じていました。しかし、冒頭の現場インタビューに登場するVFXスーパーバイザーであるオダ・イッセイさんなどの熱い仕事っぷりを読ませてもらうと、こんなに頑張れることができる面白い仕事なんだな、ということがよく理解できます。

 また、実際の仕事の流れも企画、脚本段階のプリプロダクションから関わるなど、原題の映像作品(舞台も含む)に特殊効果がどれほど重要視されているかが理解できます。

 サイレント映画時代にみずからメイクして『オペラ座の怪人』などを演じたロン・チェイニーという役者のことや、『鎌倉殿』から大河ドラマでも使われるようになったインカメラVFXは書き割り→スクリーンプロセス→グリーンバックへのCG合成という技術の進歩に沿ったものだということが納得的に説明されていて、特殊効果がいかに映像作品にとって欠かせない分野であるということも理解できます。

 CGは大きく2DSGと3DCGに分けられるが、それを合わせるコンポジット作業でひとつの映像になるなど、現代の映像作品解説としても楽しめます。

 オダさんも所属するナイス・デー社に所属する技術者のインタビューが多いのですが、いまや週休2日で残業も少なく収入面でも一般企業と差がない状況になりつつあるというのには驚きでした。昔は徹夜が当たり前みたいな職種だったのに。

 でも、実際に、こうした業界に入るには「映画が好き」という情熱が大切というのは、中高生にとっては貴重なアドバイスにもなっている、とか。パイロ(爆発)も大きなジャンルなんだな、とか色々、学べました。

| | Comments (0)

«『「むなしさ」の味わい方』きたやまおさむ、岩波新書