March 13, 2023

『言語ゲームの練習問題』

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『言語ゲームの練習問題』橋爪大三郎、講談社現代新書

 世界は要素的な出来事からなる内部構造を持ち、言語は要素命題からなる内部構造を持っていて、その構造が写像関係になっており、それが論理だ、と論証しようとした『論理哲学論考』の

6.53
6.54

 のような叙述スタイルを用いて、ヴィトゲンシュタインが言語は論理的に基礎づけることはできないと放棄し、『論考』の代わりに考えついた言語ゲームを説明してくれるのが本書。

 ヴィトゲンシュタインの師であるラッセルは論理学によって数学を基礎づけることに関心があったんですが、ヴィトゲンシュタインは論理学を考える道具とみなし、言語を基礎づけようとしました。『はじめての言語ゲーム』橋爪大三郎によれば、「このバラは赤い」は要素命題であり、バラに対応するモノがあり、「このバラは赤い」に対応する出来事があるから、言葉は意味を持つというのが『論考』の考え方だと説明していました。言語も世界も分析可能であり、分解していけば要素に行き着く、と。世界と言語とは互いに写像関係にあり、一対一で対応しているので、こうしたやり方以外での言語の使用を禁じるという意味が『論考』の「7 語りえぬことについては、沈黙しなければならない」の意味ではないか、と。

 しかし、こうした一対一の対応は科学の世界では成り立つが、社会では成り立たないということがわかって、言葉が意味を持つのは、ヒトがなんとなる分かったふりをする言語ゲームだというのが後期のヴィトゲンシュタイン。

 この『言語ゲームの練習問題』では、例えば、死の問題で言語ゲームを説明します。

.........Quote...........

定理 2・5  あなた(だけ) が死ぬのだと、あなたが知っているのであれば、あなたが死んだあとにも、世界は存在することをあなたは知っている。
 この確信は、経験によるのではない。
 この確信は、社会の前提である。ならば社会は、すみずみまで経験的に明らかにし、語り尽くすことができない。
 言い換えれば、社会は、自然科学の枠に収まらないのである。(k.293)

.........End of Quote...........

 《社会は、自然科学の枠に収まらないのである》というパンチラインが効いてます。

 そして、以下のような晴れやかな結論が導かれます。

.........Quote...........

 人びとは、人類の一員として生きている。
 それは、言葉を用いて、意味をやりとりし、価値を紡ぎだすことである。
 このことは、経験的な検証の原理を、はみ出している。
 世界はこのような、言語を交わす人びとの交流の場である。(k.309)

.........End of Quote...........

そして《人びとが社会を営むそのやり方が、言語ゲームである》(k.391)、と。

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February 28, 2023

『ショットとは何か』と"Madame de..."

 

『ショットとは何か』蓮実重彦、講談社

 ジムでエアロバイクを漕ぎながらAudibleで聴きました。観た映画については、眼前でそのシーンが上映されているような錯覚を覚える時もあり、思わず帰ってからYoutubeで見直したりしました。

 もちろん、まったく見逃していて、どこがそれほど重要なのかわからない場面もありましたし、思わず観たくなるような未見の作品に触れているところでは、やはりYoutubeで、申し訳ないのですが、その場面だけをみせてもらいました。

 そんな見返した場面のひとつがマックス・オフュルス監督の『たそがれの女心』(Madame de...、1953)のダンスシーン。ダニエル・ダリューはシャルル・ボワイエと共演した『うたかたの恋』(1935年)でマリーを演じて踊りを披露していましたが、この作品のダンスのお相手はデ・シーカ。素晴らしい大人のダンスでした。

https://youtu.be/oyyPlW4BY4A

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February 26, 2023

『安倍晋三 回顧録』安倍晋三、橋本五郎、尾山宏、北村滋、中央公論新社

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『安倍晋三 回顧録』安倍晋三、橋本五郎、尾山宏、北村滋、中央公論新社

 回顧録は第二次政権のコロナ対応から始まり、厚労省を徹底批判しています。《厚労省幹部からは、絶対に責任は負わないぞ、という強い意思を感じました。責任を取るのは首相なのだから、そんな心配する必要はないのですが、あきれてしまいました。厚労省は、思考が停止していました》(k.308。kはkindle番号)など。

 アビガンが承認されなかった理由も興味深かったです。《薬事承認の実質的な権限を持っているのは、薬務課長です。内閣人事局は、幹部官僚700人の人事を握っていますが、課長クラスは対象ではない。官邸が何を言おうが、人事権がなければ、言うことを聞いてくれません》(k.405)。薬害エイズ事件の時、技術系の元厚労省血液製剤課長は逮捕され、禁固1年、執行猶予2年の刑を受けましたが、薬務局長や事務次官らは不起訴だったことが影響していたといいます。

 アビガンに関してはこんなエピソードも紹介されています。《実は、北朝鮮の高官もアビガンをほしいと言ってきました。人道的な問題で、微妙な案件でしたが、その後の対応については、ご想像にお任せします》(k.409)。しかし、その後も続く厚労省のミスは本質は役人の劣化ではないかと語っています。《役人が劣化してしまった、ということではないでしょうか。調査はいい加減、それを取りまとめれば、普通は誤りに気がつくことも、目を通していないから気がつかない》(k.3510)。

 また、財務省も厳しい。財務省は経済成長は無視して財政均衡しか考えず、民主党政権にもスリ寄って行った、と。《社会保障と税の一体改革は、財務省が描いたものです。当時は、永田町が財務省一色でしたね。財務省の力は大したものですよ。 時の政権に、核となる政策がないと、財務省が近づいてきて、政権もどっぷりと頼ってしまう。菅直人首相は、消費増税をして景気を良くする、といった訳の分からない論理を展開しました。民主党政権は、あえて痛みを伴う政策を主張することが、格好いいと酔いしれていた。財務官僚の注射がそれだけ効いていたということ》(k.1157)。

 そして消費税増税を延期した安倍政権を倒そうともしていた、と。《財務省と、党の財政再建派議員がタッグを組んで、「安倍おろし」を仕掛けることを警戒していたから、増税先送りの判断は、必ず選挙とセットだったのです。そうでなければ、倒されていたかもしれません。  私は密かに疑っているのですが、森友学園の国有地売却問題は、私の足を掬うための財務省の策略の可能性がゼロではない。財務省は当初から森友側との土地取引が深刻な問題だと分かっていたはず》k.3934。

 外務省も《そもそも日本のロビー外交は弱いのです。日本大使館の議会担当者は、2年くらいで異動しちゃうわけで、なかなか米国の議員に食い込めなかった》(k.1925)と弱さを批判します。

 官僚批判は内閣法制局人事にも及びます。《内閣法制局といっても、政府の一部の局ですから、首相が人事を決めるのは当たり前ではないですか。ところが、内閣法制局には、長官を辞めた歴代長官OBと現在の長官が集まる参与会という会合があるのです。この組織が、法制局では絶対的な権力を持っているのだそうです。そこで、法制局の人事や法解釈が決まる。これは変でしょう。国滅びて法制局残る、では困るんです》(k.1430)。

 国内政治もリアル。《衆参同日選は選択肢にはありました。ただ、同日選に、中選挙区時代ほどのメリットはないとも思っていた》《応援に入る衆院議員が自分の後援会の力をどこまで出すかと言えば、4、5割程度》《でも、小選挙区制が導入されてからは、政党選挙の色合いが濃くなり、個人後援会を持たない若い衆院議員が増えた。彼らは、党の組織や地方議員の後援会に乗っかって戦っている。これでは同日選をやっても参院にそれほどプラスには働かないと思った》(k.2598-)というのはなるほどな、と。

 そして、日本の政治として、あまりにも選挙が多すぎる、と。《首相というポストにいれば、こういう失言や辞任があり得ることも織り込み済みで、常に人事をやらないといけないのです。政策通で答弁が安定している、資金面も極めてクリーンだという人だけで人事を回していたら、限られたメンバーばかりを登用することになる。それでは党内が持ちません》(k.4361)、《自民党総裁として衆参合わせて6回の国政選挙と、総裁選3回を勝たなければ、歴代最長にならなかったわけですから、今後誰が総裁、首相になっても、とんでもなく大変です》(k.4603)。

 外交関係で印象的だったのは以下のあたりでしょうか。

 軍事力の行使についても、ロシアは結構、汚れ仕事を買って出てくれるのです。シリアでイスラム過激派組織「イスラム国(ISIL)」の拠点を空爆したのも、ロシアでしょう。世界中がシリアの原油を買いあさり、ISILはそれを資金源にしていた。そのISILを一掃しようとしたわけです。そういう役割も、国際社会では重要です。ただ、トランプが主張していたように、何の条件も付けずにロシアに首脳会議の枠組みに戻ってもらう、というのでは、誰も納得しない(k.1799)

 欧州では、誰かがチャレンジしない限り、党首選は行わない国が多い。定期的に党首選をやっている国は少ないのです。日本の首相は、国政選挙に加えて定期的な党首選があり、審判の機会にしょっちゅうさらされている。国政選挙と関係なく、自民党の総裁を決めるという派閥の論理が残ってしまっているのですね。この仕組みを改めないと、選挙で国民に約束したことを内閣は実行できなくなってしまいます(k.2093)

大統領との電話会談も、オバマの場合、 15 分から 30 分程度と短めでした。米国の大統領は忙しいから長い時間は取れないのだろうと思っていました。  しかし、トランプは違った。結構、時間が取れるんです。トランプは平気で1時間話す。長ければ1時間半。途中で、こちらが疲れちゃうくらいです。そして、何を話しているかと言えば、本題は前半の 15 分で終わり、後半の7、8割がゴルフの話だったり、他国の首脳の批判だったりするわけ(k.2212)

キャメロンも、中国に傾斜してしまった欧州首脳の一人です。 12 年にチベット仏教最高指導者のダライ・ラマ 14 世を英国に招待し、会見しました。中国の弾圧を受けてインドに亡命したダライ・ラマとの会見に、中国は激怒し、報復として英国との交流を止めてしまった。焦ったキャメロンは、人権問題を棚上げし、中国に接近しました。それが、西側諸国で真っ先に中国主導の国際金融機関・アジアインフラ投資銀行(AIIB) への参加表明につながっていく(k.2346)。

ロシアの外交当局は基本的に中国と仲が良い。私が「中国は不良ですよ」と言っても、ロシアも不良だから、不良仲間は大切にするという感覚なのかなと思いました》《16 年秋には米大統領選があり、オバマの任期切れは近かった。次期米大統領が選ばれるまでの間隙を狙って日露を前に進めようと考えていたのです。  トランプ米大統領は、日露交渉に反対しませんでした(k.2685)。

米国は 17 年、対北朝鮮の軍事オペレーションを本気で検討し、圧力をギリギリまで高めていました。米本土を標的にされることを看過できなかったわけです。秋に米軍は空母3隻の打撃群を西太平洋や日本海などに展開しました。空爆を想定したB 52 戦略爆撃機はたびたび飛来し、ミサイルを搭載した米潜水艦も、日本海近海で運用されていました。金正恩としては自国の安全保障に関し相当の焦りがあったと思います。それが 18 年の方針転換につながったのかもしれません(k.3626)。

目次
第1章 コロナ蔓延 ダイヤモンド・プリンセスから辞任まで
第2章 総理大臣へ! 第1次内閣発足から退陣、再登板まで
第3章 第2次内閣発足 TPP、アベノミクス、靖国参拝
第4章 官邸一強 集団的自衛権行使容認へ、国家安全保障局、内閣人事局発足
第5章 歴史認識 戦後70年談話と安全保障関連法
第6章 海外首脳たちのこと オバマ、トランプ、メルケル、習近平、プーチン
第7章 戦後外交の総決算 北方領土交渉、天皇退位
第8章 ゆらぐ一強 トランプ大統領誕生、森友・加計問題、小池新党の脅威
第9章 揺れる外交 米朝首脳会談、中国「一帯一路」構想、北方領土交渉
第10章 新元号「令和」へ トランプ来日、ハメネイ師との会談、韓国、GSOMIA破棄へ
終章 憲政史上最長の長期政権が実現できた理由
資料

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February 02, 2023

『国商 最後のフィクサー葛西敬之』

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『国商 最後のフィクサー葛西敬之』森功、講談社

 あまり読んだ本に関しては文句を言わないようにしているんですが、これはちょっと…と思うところがあって、どこまで取材というか下調べをしているのか前半の国鉄改革からJR発足にかけての4章ぐらいまで読んで疑問に思ったので、それ以降は読んでいません。

 間違いなのは例えば信州大学へ講義に行った際に投げつけられたのが「生卵」としているあたり(p.107)。ちょっと調べれば写真写りのためにペンキが中心だったことはわかるハズなのに、伝聞をそのまま載せていて、校閲のチェックもできていないところ。

 当時、まだ小此木彦三郎代議士の陣笠議員だった菅義偉さんのことをやたら暗躍っぽく描いていたりしているあたりもリアルタイムでの取材などはもとより求めていませんが、あまりにも牽強付会。

 さらに、JR東日本社長を巡る杉浦国鉄総裁と、実質的に国鉄改革を仕切った住田正二運輸経済研究センター会長の対立に長い頁を割いていますが、誰も「東は住田」と思っていて、杉浦さんにそんな野心があったとはと驚いたぐらいのエピソードだったので、これも当時のことは知らないのかな、と。

 組合問題についても「そういう見方があるのかw」的なところも散見されて、後半を読む気がなくなりました。

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『戒厳令下のチンチロリン』藤代三郎

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『戒厳令下のチンチロリン』藤代三郎

 目黒考二さんは群一郎、北上次郎など数字シリーズのペンネームを使っていました。競馬とかギャンブルのジャンルで使っていたのが藤代三郎で、椎名誠さんを売り出した情報センター出版局の星山さんがセンチュリープレスの一冊として出した第1作『戒厳令下のチンチロリン』は本当に好きな本でした。

 中小出版社に働く仲間たちとの麻雀、競馬、チンチロリンなどのギャンブル生活を描き、そのハイライトは79年の東京サミット開催中に社内でチンチロリンを開帳するという内容。

 中でも田舎の素封家の息子でありながら、大学卒業後も実家に帰らず、酒とギャンブルに明け暮れポックリ病で死んでしまった「内田くんのピッカピカ靴物語」は、ある時代の編集者というかマイナー出版社の働く人たちのやるせない気持ちをサラリと描いた傑作だと思っています。

 そのな内田君を描いた目黒考二さんは働き盛りの20年間、週に1日しか家に帰らない暮らしを続けたそうです。家には、妻と幼い二人の子供がいるのに。椎名誠さんと起こした本の雑誌社に出勤し、金曜日までずっと会社に泊まり込んで仕事をしたり本を読んだり。土日は競馬場に直行するという暮らしをしてきたんですが、なぜか離婚もされず、お子さん2人もマトモな社会人生活を送っていると風の便りにきく、人生の達人のような生き方をしていた方でした。

 実はちょっと思い込みの強い書評はあまり得意ではありませんでしたが、椎名誠さんとその仲間たちには欠かせない存在でした。

 何回か新宿の池林坊で見かけたんですが、話しかけるには至りませんでした。こんなことだったら、どんな声をしていたのかぐらい知っておけば良かったかな、とは思いますが、そうしたことはやらないんで。ま、寂しい限りです。

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『陸・海・空 究極のブリーフィング 宇露戦争、台湾、ウサデン、防衛費、安全保障の行方』

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『陸・海・空 究極のブリーフィング 宇露戦争、台湾、ウサデン、防衛費、安全保障の行方』小川清史、伊藤俊幸、小野田治その他

 Youtubeの番組の書籍化第2弾で、今回も面白く読ませてもらいました。番組で足りなかったところの補足、その後の展開も含めての解説など、神ならぬ身の解説者にとって、そうした加筆は当然だと思います。

 

 個人的に面白かったのは「第3章 ウサデン(宇宙・サイバー・電磁波)という戦場」。ウサデンというかにも日本的な四文字略語には笑ってしまったんですが、

 

■宇宙の目

■ロシアの電子戦にやられた2014年のウクライナ

■2022年、ロシアの電子戦の状況

■日本政府の防衛装備品の輸出規制緩和方針

■QUAD首脳会談とバイデンの台湾有事発言

■自衛隊トップのNATO参謀長会議出席

 

というコンテンツは情報満載でした。宇宙を戦場にしてしまうと世界大戦につながってしまうので、ロシアが行うとしていたのは「宇宙から得られる情報の弱体化」という指摘はなるほどな、と。欧米は武器輸出のために専門省庁を持ち第三国に渡らないように管理しているとかも。あともQUADは外務省が仕切っている枠組みなのでNATOのような同盟ではない、みたいな視点も自衛隊出身者ならではだな、と。また、自衛隊トップのNATO参謀長会議出席は、NATOが冷戦後取り組んできた一民族・一国家とはなってないことで発生する民族問題の解決のためにも重要だとか。

 

 「第4章 防衛政策の展開」では、《予算要求をする人と戦争の準備をする人がほぼ重なって、予算要求の一番忙しい概算要求の時期は訓練演習ができない》という問題があるというのは、現場経験者ならではの指摘だな、と。

 

 「第6章 第4次台湾危機と安倍元総理の功績」では、プーチンがキレたのはウクライナ国内にNATO軍が入って合同演習をしたからという指摘とともに、《この状況を台湾に当てはめてみると、非常に危険な状況になる》としてペロシ下院議長の訪台は問題だった、と発言しているあたりはバランスがとれているな、と感じました。

 

 「補章 『トップガン・マーベリック』と次世代戦闘機」では、空母艦載機は1機種だとエンジントラブルなどが起きたら全機出動できなくなるので必ず2機種以上つくるのが決まりになっている、というあたりもなるほどな、と。

 

[主な目次]

 

第1章 プーチンは核を使うのか

■ロシアの核に対するアメリカの態度

■アメリカの核状況の中国への影響

■日本の防衛体制の諸問題

 

第2章 宇露戦争、約100日のエンドステート、優勢、劣勢の見方

■軍人なら絶対にしない、ロシア軍のバカげた作戦

■アメリカのエンドステート

■優秀な火力が必要な理由

 

第3章 ウサデン(宇宙・サイバー・電磁波)という戦場

■ロシアの電子戦にやられた2014年のウクライナ

■日本政府の防衛装備品の輸出規制緩和方針

■QUAD首脳会談とバイデンの台湾有事発言

■自衛隊トップのNATO参謀長会議出席

 

第4章 防衛政策の展開

■防衛費倍増方針にまつわる問題

■自衛隊統合司令部の新設について

 

第5章 インテリジェンス、兵器備蓄、ランチェスターの第二法則

■ウクライナ侵攻と台湾有事

 

第6章 第4次台湾危機と安倍元総理の功績

■見逃された最高指揮官としての憲法改正

■政権を潰す覚悟で成し遂げた平和安全法制

■アメリカの有識者のイメージを払拭した講演

■災害派遣で見た安倍元総理のリーダーシップ

■見逃された最高指揮官としての憲法改正

 

補章 『トップガン・マーベリック』と次世代戦闘機

■どうなる日本の次世代戦闘機

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January 04, 2023

『世襲』中川右介

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『世襲』中川右介、冬幻舎新書


 今朝の新聞で【竹下登氏の生家 150年の酒造撤退】という記事が載っていました。実は竹下登さんの母は、教員として松江に赴任していた戦前日共の最大のイデオローグである福本イズムの教祖、福本和夫の教えを受けていました。実家である造り酒屋のブランドは「出雲誉」ですが、最初は「大衆」という名前にしていました。その名付け親はもちろん福本和夫から感化された竹下さんの母。

 『世襲』では《田中・竹下・金丸・小沢たちは、激烈な党内抗争・派閥内抗争で資金を使い、権謀術策も駆使し、法にも触れながら絶大な権力を得たが、その栄華は短く、世襲もできない》(p.195)とありますが、同時に、それは田中派的な日本における「共同富裕」の終焉にも重なるな、と。

 企業の世襲篇では、民主的な運営をしようとして世襲を廃そうとすると、川又、塩路、石原、ゴーンとかえって長期独裁体制による停滞を生むんだ日産などの例が紹介されていますが、意図とは逆なことになってしまうのが人の世だな、と。

[第3部 歌舞伎の世襲史]

 本書は政治、企業、歌舞伎の三部構成ですが、團十郎襲名披露もあったので歌舞伎篇から逆に読んでいきました。

 歌舞伎の世襲の最初は團十郎から。初代は元禄時代に江戸歌舞伎を創始し、明治の九代目が歌舞伎を今の高尚な地位に引き上げたので「なぜ市川團十郎は特別なのか」という問いは無意味で「市川團十郎を頂点とする世界が歌舞伎の世界」なのだ、と(p.379)。子役を登場させ、父子共演を始めたのも初代と二代目だというのですから、興業システムも創造したんでしょう。十三代目が襲名披露の十一月も十二月も演じた助六を完成させたのも二代目。四代目は修行講という演劇学校みたいなものも創設、歌舞伎界の統率者になっていった、と。

 そのため五代目幸四郎は2人の娘を嫁がせてまで七代目と縁組しようとしたんですが、離縁されます。しかし八代目が自死してしまい、河原崎家に養子となっていた九代目が堀越家に復縁して襲名。ちょうど明治維新と重なったこともあり、武士が愛した能・狂言は新政府によって弾圧され、幕府に監視されていた歌舞伎が外国の賓客にも見せられる日本の伝統芸能の地位を確立。九代目は実子に継がせることはできませんでしたが、七代目幸四郎が長男を高麗屋悲願の團十郎として十代目を襲名させます。この孫が現・十三代目で《独善的なイメージもある十三代目だが、どこにどんな役者がいるのか、劇界全体を見ており、機を見て抜擢する先見性を持っている。役者の才能を見抜く力もある。團十郎として劇界最高位に立つという自覚があるのだろう》というので楽しみです(p.481)

 このほか、菊五郎は五代目も六代目も「養子をもらった後、妾が子を産む」ことになるあたりも面白かった。しかし、この実子は役者として大成できず、養子の梅幸の長男・秀幸に菊五郎が継ぐことになるのですから、実子相続というのは難しいな、と。

 江戸歌舞伎はシェイクスピアのグローブ座より古く長く芝居を打ち、團十郎は十八番を通じてソフト的パワー、著作権を確立したという意味でも世界の演劇シーンをリードしているのかもしれません。一月にやる十六夜清心などでも、あの内容の芝居を上演出来るのは今の世界でも先進国だけではないでしょうか。

[第2部 世襲企業盛衰史]

 企業編は自動車産業と鉄道産業。

 高度な教育だけが高所得の源泉という認識が浸透し、高度な教育を受けた層だけが集まるような地域ができたりして中間層が瓦解。成功は世襲となっていくという姿に重なっていきます。

 一般的に世襲社長が優秀な可能性は低いので一族企業は社長交代時期に売り抜けが相場のセオリーと言われていますが、そうした悲喜劇を回避する手段は出来の良い婿養子をとる、という戦略が有力だというのもスズキなどでよく理解できるのも企業篇です。また、世襲を否定すると、川又、塩路、石原、ゴーンとかえって長期独裁体制による停滞を生むということが日産などの例でもよく分かります。

 トヨタはあくまで例外、みたいな。

 しかし、トヨタの社史では《豊田一族よりも財界で出世したことが、誰かの逆鱗に触れた》のか奥田の扱いは小さいそうで、なんだかな、と(p.313)。

 《豊田大輔が有名になったのは、2021年3月、宝塚歌劇団の星蘭ひとみと結婚すると報じられてからだ。緊急事態宣言下の5月8日に帝国ホテルで「結婚を祝う会」が約200人の出席者のもとで開かれ、話題になった》というあたりまでフォローしているのはさすがだな、と(p.314)。ちなみに父・章男も大輔もファミリービジネス出身者が多く「教育の質、投資価値、卒業生の年収」を元にした大学ランキングでは全米655の大学中1位となっているバブソン大学の大学院を卒業しているんだな、と。

 鉄道事業篇では東武の根津一族が途中から鉄道経営に携わったとは知りませんでした。子供の頃、根津美術館が近くにあって、就職してからも二代目の根津嘉一郎さんとは知己を得て、よく美術館に泊まって仕事をしているなんていう話しもうかがったことがあります。

 小林一三はその事業を『大衆本位』と言いましたが、戦前「百貨店へ行く庶民がいないのなら、庶民が行ける百貨店をつくればいい」という発想は素晴らしいな、と(p.323)。さらに、東宝グループもつくり、TOHOシネマズは小林一三の「全国百館主義」を原点として小林ブランドを強調しています。しかし、小林公平さんは婿養子だったんすね…息子の公一も一三翁とは似ても似つかない体躯だったんですが、なるほどな、と…企業グループがでかくなりすぎて一族のボンボンでは治めきれなくはなっていますが、公一が社長になれなかったのは男系直系じゃなかったから、ということもあるのかな、とか…。

[第1部 戦後政治世襲史]

 強調されるのは政治家の世襲は戦後のことだ、ということ。吉田茂、岸信介、佐藤栄作、鈴木善幸、麻生太郎、安倍晋三と現首相の岸田文雄と宮沢喜一は親戚で、8人で戦後77年のうち、33年も政権を握っている、と。

 確かに貴族院は廃止され、帝国議会の衆議院議員も反吉田は公職追放となったから、その間に優秀な官僚を議員に育て、その子たちが跡を継ぐ構造だったんだろうけど、戦前の衆議院議員のことをもっと知りたいとも思った(無意味かw)。さらに、小選挙区では公認を得られないと当選が難しくなり、中選挙区みたいな一発逆転の可能性が低くなり、小選挙区で当選をし続けると殿様みたいになってしまい、その利権にしがみついてる周りが殿様をもり立てつつ、若殿も用意するように仕向けるという構造もあるのかな、と。

 最近でも故・安倍晋三元首相の実弟である岸信夫前防衛大臣が長男・信千世氏を後継者として指名しました。岸信千代氏は慶大商学部なんですかね?岸氏は年末に「飲食の提供はございません」というパーティーを会費2万円で開き、その資金は世襲させる際に譲る政治団体に引き継がれるそうです 。中川右介さんは《東大を出ればいいというものではないが、学歴・学力の劣化は出身校リスト(127ページ)を見れば一目瞭然だ》と「はじめに」で皮肉っぽく書いているけど、こうもシレッと世襲されると、こんなことも言いたくなるわな、とw

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 あと、他人の飯を喰っていなかったり、企業などに就職しなかったのした二世の政治家はダメだな、という感じがします。

 竹下登氏の生家 150年の酒造撤退という記事が載っていましたが《田中・竹下・金丸・小沢たちは、激烈な党内抗争・派閥内抗争で資金を使い、権謀術策も駆使し、法にも触れながら絶大な権力を得たが、その栄華は短く、世襲もできない》(p.195)とあります。

 実は竹下登さんの母は、教員として松江に赴任していた日共・福本イズムの教祖、福本和夫の教えを受けており、実家である造り酒屋のブランドは最初「大衆」という名前にしていました(現在の「出雲誉」)。名付け親はもちろん福本和夫から感化された竹下さんの母。これは田中派的な日本における「共同富裕」の終焉にも重なるな、と。

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December 31, 2022

『第三次世界大戦はもう始まっている』エマニュエル・トッド

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『第三次世界大戦はもう始まっている』エマニュエル・トッド、文春新書

 今年の最大の出来事は日本では安倍元首相の銃撃でしょうし、世界ではロシアのウクライナ侵攻でしょう。こうした大きな出来事は多面的な見方が必要で、戦争問題については、『湾岸戦争は起こらなかった (la guerre du Golfe n'a pas eu lieu)』(1991年)みたいに、フランス人哲学者はいつも「別な視点」を提供してくれます。

 大きな戦争が起きるとフランス人の人文系の学者さんが極端なことを言って物議をかもす、というのは三題噺みたいな感じになっていて、それはそれでなかなか重要な社会的役割だと思っています。

 当時、ボードリヤールは「湾岸戦争は起こらないだろう」という予言で敗北をして大ハジをかいてしまいました。しかし、そこからがボードリアールの腕のみせどころで、ボードリヤールはテレビで湾岸戦争をみている人々にこうささやきかけはじめたのです「これは本当に戦争かい?」。永遠の予告編のような、テレビ画面。それはリアリティに近づくことは情報よりはイマジネーションが必要になるかもしれない世界をあらわしている、みたいな。それは現実の反映は現実の隠蔽を生み、それが現実の不在にもつながるみたいな消費世界とパラレルになっていて、「実験動物のように何の反応も示させない敵を、電気処刑し、麻痺させ、ロボトミーを施すウルトラモダンなプロセス」は「そんなものは戦争じゃない」(p.93)とまで書いています。そして米軍までもがボードリヤール的な発想を借りたかどうかはわかりませんが、湾岸戦争を "Hyperwar" と呼ぶことになってしまったことは、情報というのは消費される対象を選べないんだな、と思いましたが「残っているのはスペクタクルへの意思だけである」とかいう言葉は印象的でした。

 湾岸戦争はあっという間に集結してしまったので、確かに「はたしてこの戦争は起きているのか」と不思議な気持ちになってきたことも思い出しますが、とにかく、ロシアは悪という一面的な見方だけが正しいのか、という視点をもつことは重要だったな、と。

 とはいっても、この『第三次世界大戦はもう始まっている』は、戦争を仕掛けたのはプーチンでなく米国とNATOであり、クリミアとドンバス地方を守ることは旧ソ連からの民族自決主義の原則からも論理的には正しいし、米英の方が予測不能なことを世界ではやっているみたいなトッドの言い分はいろんなところで読めるので、それほど目新しいものではありません。

 それよりも、人口学者としての専門家からみた「共同体家族のロシアと核家族のウクライナは相容れない」みたいなところの方が面白かった。ロシアの家族システムは共産主義と親和性の高い結婚したら父親と息子家族が同居する共同体家族でウクライナの家族システムは結婚したら子供は親と同居しない自由主義的な西欧と同じ核家族だ、みたいなあたり。そしてウクライナはかつてはポーランド領で最もヨーロッパ的だけど地位の低いリビウ、中心であるキエフ、ロシア人の多いドンバス地方と3つに分けられるみたいなあたりも。

 米国は思っているほど強い国でもない、みたいなところでは訴訟費用のGDPに占める割合が高すぎて、それは生産性とは関係ない、みたいなところも面白かった。*1

 また、バルト三国は1917年の選挙でボルシェビキに対する得票が非常に高く、その後のソ連の秘密警察づくりにも大きく関与するなどしたため、ロシアに対してはアンビバレンツな国民感情を持っているとか、ポーランドはやたらとロシアに対して自殺行為のような戦争を仕掛けるので、戦争の展開によってはウクライナのリビウを占領したり、ロシアに攻撃したりするような不安があるかも、というあたりも新鮮でした。

 そしてロシア経済は高度な教育をベースにしてソフト、ハードとも意外と強く強靱だ、みたいな指摘もなるほどな、と。

 目次が充実というか詳細なので、それだけみても、内容はかなりわかりそうです。

1 第三次世界大戦はもう始まっている

"冷酷な歴史家"として

「戦争の責任は米国とNATOにある」

ウクライナはNATOの 〝事実上〟の加盟国だった

ミュンヘン会談よりキューバ危機

「NATOは東方に拡大しない」という約束

ウクライナを「武装化」した米国と英国

ウクライナ軍が抵抗するほど戦争は激化

「手遅れになる前にウクライナ軍を破壊する」が目的だった

米国にとっても「死活問題」に

我々はすでに第三次世界大戦に突入した

「二〇世紀最大の地政学的大惨事」

冷戦後の米露関係

戦争前の各国の思惑

超大国は一つだけより二つ以上ある方がいい

起きてしまった事態に皆が驚いた

米国の誤算

ロシアにとっても予想外

共同体家族のロシアと核家族のウクライナ

「国家」として存在していなかったウクライナ

「親EU派」とは「ネオナチ」

ネオナチと手を組んだヨーロッパ

家族構造とイデオロギーの一致

共産主義を生んだロシアの家族構造

家族構造の違いから生じたホロドモールの惨劇

ボリシェヴィズムが初期から定着したラトビアの家族構造

「ヨーロッパ最後の独裁者」を擁するベラルーシの家族構造

「近代化の波」は常にロシアからやって来た

国家建設に成功したロシアと失敗したウクライナ

プーチンの誤算

ロシアはすでに実質的に勝利している

西欧の誤算

欺瞞に満ちた西欧の〝道徳的態度〟

オリガルヒへの制裁は無意味

「ロシア恐怖症」

「消耗戦」が始まる

暴力の連鎖

中国はロシアを支援する

米国と西側の経済は耐えられるのか

経済の真の実力はGDPでは測れない

ウクライナ相手に貿易赤字だった米国

経済における「バーチャル」と「リアル」の戦い

対露制裁で欧州は犠牲者に

米国の戦略目標に二重に合致したウクライナ

NATOと日米安保の目的は日独の封じ込め

現実から乖離したゼレンスキー演説

エストニアとラトビアという例外

予測可能な国と予測不能な国

ポーランドの動きに注意せよ

最も予測不能な米国

「ネオコン一家」ケーガン一族

世界を“戦場”に変える米国

米国の危うさ”は日本にとって最大のリスク

核を持つとは国家として自律すること

「核共有」も「核の傘」も幻想にすぎない

米国に対する怒り

西洋は「世界」の一部でしかない

長期的に見て国益はどこにあるか

4「ウクライナ戦争」の人類学

第二次世界大戦より第一次世界大戦に似ている

軍事面での予想外の事態

経済面での予想外の事態

正しかったミアシャイマーの指摘

ミアシャイマーへの反論

米国は戦争にさらにコミットする

時代遅れの「戦車」と「空母」

米国の戦略家の"夢"を実現

ポーランドの存在感

真のNATO"に独仏は入っていない

ウクライナの分割

この戦争の〝非道徳的な側面"

ウクライナ西部のポーランド編入

ウクライナ侵攻に対する各国の反応

家族構造における父権性の強度

人類学から見た世界の安定性"

「民主主義陣営vs専制主義陣営」という分類は無意味

露中の「権威的民主主義」

ロシアと中国の違い

ロシアの女性とキリスト教

現在の英米は「自由民主主義」とは呼べない

「リベラル寡頭制陣営vs権威的民主主義陣営」

日本・北欧・ドイツ

リベラル寡頭制陣営の「民族主義的な傾向」

権威的民主主義陣営の「生産力」に依存

「高度な軍事技術」よりも「兵器の生産力」

米露の生産力

ヨーロッパ経済はインフレに耐えられるか

真の経済力は「エンジニア」で測られる

本来、この戦争は簡単に避けられた

西洋社会が虚無から抜け出すための戦争

第一次世界大戦は中産階級の集団的狂気

英国は病んでいる

「地政=精神分析学」が必要だ

なぜ中国よりもロシアが憎悪の対象になったのか

「反露感情」で経済的に自殺するドイツ?

現時点では一歩引いた方がいい

マリウポリから脱出したフランス人の証言

「ウクライナに兵器を送るべきだ」の冷酷さ

米国が”参戦国” として前面に

"軍事支援" でウクライナを破壊している米国

..................
*1
米国商工会議所(ILR)によると2016年現在で、米国の訴訟費用は国内の総生産の2.3%を占めます。

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December 24, 2022

今年の1冊は『歴史総合 近代から現代へ』山川出版社

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 毎年、細々とやっている今年の1冊は、やはり山川の高校教科書『歴史総合』でしょう。それなりに近現代史の本は読んできたつもりでしたが、高校の教科書にもこんなに教わることが多いとは。流行の学び直しにも最適の1冊だと思いますので、ぜひ、冬休みの期間中などにも読んでみてください。山川は進学校向け、中堅校向け、そうでない高校向けと3種類の教科書を発行するほどの力の入れようなんですが、これは進学校向けです。また、写真の用語解説や学習ノートなどもぜひ。

 個人的に評価出来ない省庁No.1の文科省ですが、歴史総合の導入だけは褒めたいと思います。

 また、歴史総合の導入に合わせて、その意義などを解説する本も多く出版されましたが、『歴史学のトリセツ』小田中直樹、ちくまプリマー新書は、歴史好きの素人には抜けているような基礎を教えてもらいました。それはランケ以来の近代歴史学史の解説。近代歴史学は国民国家とともに始まり、史料収集なども国民国家の制度に乗ったものであるため、ナショナルヒストリーにならざるを得なかったが、それが限界でもあるため、世界システム論的な大きな流れの中で見直そうということになった、みたいな背景がよくわかります。

 岩波も新書でシリーズ歴史総合を学ぶを出していますが、この①『世界史の考え方』は参考になりました。
第一章のテーマは「近代化の歴史像」。紹介されている本は大塚久雄『社会科学の方法』、川北稔『砂糖の世界史』、岸本美緒『東アジアの「近世」』。
第二章「近代の構造・近代の展開」で紹介されているのは遅塚忠躬『フランス革命』、長谷川貴彦『産業革命』、良知力『向う岸からの世界史』。
第三章「帝国主義の展開」で紹介されているのは江口朴郎『帝国主義と民族』、橋川文三『黄禍物語』、貴堂嘉之『移民国家アメリカの歴史』。
第四章「二〇世紀と二つの世界大戦」で紹介されているのは丸山真男『日本の思想』、荒井新一『空爆の歴史』、内海愛子『朝鮮人BC級戦犯の記録』。
第五章「現代世界と私たち」で紹介されているのは中村正則『戦後史』、臼杵陽『イスラエル』、峯陽一『2001年の世界地図 アフラシアの時代』。
 全て新書などですが何冊か読ませてもらいました。

 目が弱くなって、Audibleがありがたくなっています。基本的にジムの運動の最中に英語のサビ落としで英語の本を聞いていたのですが、日本語の『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬がやはり素晴らしかったので、そこから『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチも聞きました。ロシアが変革を起こすとしたら、それはこうした女性たちではないかな、と年末に期待を込めて…。

 睡眠がブームになっていますが、Audibleで聞いた"Why we sleep"はためになりました。睡眠は学習、精神状態を改善し、ホルモンを調節し、癌、アルツハイマー病、糖尿病を予防し、老化を遅らせ、寿命を延ばすというんですから、積極的にフィットネス・トラッカーとAPPを使って睡眠管理に励んでいます。

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December 21, 2022

『16テーマで知る鎌倉武士の生活』

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『16テーマで知る鎌倉武士の生活』西田友広、岩波ジュニア文庫

 良書の宝庫、岩波ジュニア文庫は素人の歴史好きにとっては本当にありがたいシリーズです。

 「御家人」という言葉も、頼朝の地位が確立するにつれ、頼朝の家人に「御」が付いたものとか知らなかったし、
・平安時代の地方社会では、律令制による、戸籍に基づいて一般民衆を兵士として徴発する軍団制が、軍司の子弟を中心とする健児制に移行(p.17)

・義経は八番目の子でありながら、偉大な叔父の八郎為朝に遠慮して九郎を通称とした(有名な話しらしいですが、知らなかった… p.105-)

・公領では郡司や保司などが、荘園では下司や公文(国衙や領家に対して提出する文書を作成する者)などの荘官が、下知での土地の管理を行っており、これらはまとめて「荘公下職」と呼ばれていた(p.160)

・直義は御家人と「本所一円地住人」を区別して動員しようとしたが、混乱が長引くなかで、動員に応じない場合は敵方とみなすようになり、直接主従関係の無い武士も守護から軍役を賦課される国人となっていった(p.195)

 なんかは勉強になりました。

 著者の西田友広さんは東京大学史料編纂所の准教授で共編著書には『現代語訳 吾妻鏡』吉川弘文館で第70回毎日出版文化賞を授賞していますが、担当した10巻では寛喜の大飢饉を乗り越えて制定された「御成敗式目」などを担当しています。

 「おわりに」のまとめが素晴らしい!

--quote--

 この本では、一六のテーマから鎌倉武士、すなわち、源頼朝に従って鎌倉幕府を作り上げ、その鎌倉幕府のトップである鎌倉殿に仕えた武士の姿を見てきました。鎌倉武士の生活のあり方については個別の章で具体的に見てきましたので、ここでは、政治や社会の動きの中で鎌倉武士のあり方をまとめておきましょう。

 社会における武力の担い手として登場してきた武士たちは、次第にその政治的地位を高め、平清盛は武士として初めて政権を掌握しました。一方、一一五九(平治元)年の平治の乱で清盛に敗れた源氏は逼塞を余儀なくされます。平治の乱によって伊豆国に流罪となった源頼朝は、一一八〇(治承四)年に挙兵し、南関東の武士たちを味方にすることに成功して鎌倉に入ります。こうして、鎌倉を本拠地として鎌倉殿と呼ばれるようになった源頼朝と、頼朝を主君として仕える武士、すなわち御家人とからなる政治勢力が誕生します。平氏の主導する朝廷に対する反乱軍・反政府武装勢力としての出発でした。

その後、頼朝は後白河上皇と接触して官軍・政府軍へと立場を変えることに成功し、平氏、さらに奥州藤原氏を滅ぼして唯一の武家の棟梁となります。反乱軍・反政府武装勢力から出発し、戦乱の中でその権力を拡大してきた頼朝とその御家人たちは、一一九一(建久二)年には、日本全国の治安維持にあたる存在として、社会の中にその位置づけを確保しました。こうして鎌倉殿をトップとする武家政権である鎌倉幕府が誕生し、御家人たちは幕府から守護や地頭に任じられて、治安維持や年貢の徴収・納入などを行うことになりました。

 鎌倉時代中期以降になると、分割相続の行き詰まりなどから困窮する御家人が現れる一方、荘園制の展開の中で、社会全体で所領をめぐる紛争が頻発するようになり、治安維持を役目とする幕府御家人の負担は増加していきます。幕府内では北条氏の役割が増加して北条氏への権力集中が進みますが、御家人以外を動員することのできない幕府は治安維持の役割を十分に果たすことができなくなっていきます。

 治安維持に関する負担と不満が幕府に集中する中で、後醍醐天皇が挙兵し、有力御家人であった足利尊氏がこれに応じて、一三三三(元弘三)年、鎌倉幕府は滅亡します。しかし、滅亡したのは北条氏とその家来たちがほとんどで、多くの御家人たちは幕府から離反しました。御家人たちは、南北朝の戦乱の中で国人へと姿を変え、後の時代を生きていくことになります。

--end of quote--

目次
鎌倉武士とは
鎌倉武士の誕生
鎌倉武士の住居
鎌倉武士の食生活
鎌倉武士の服装
鎌倉武士の武装
鎌倉武士の合戦
鎌倉武士の武芸
鎌倉武士の人生
鎌倉武士の教養
鎌倉武士の娯楽
暴力と信仰
鎌倉殿への奉公
守護と地頭
女性の地位
鎌倉武士の行方

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